組替え絵画ーin/out 2014
(展示風景)
展覧会企画:藤井匡(キュレーター・東京造形大学准教授)
作品タイトル:組替え絵画ーin/out 2014
素材・制作方法など:水彩絵具、綿布、カーテンレール、ワークショップ、インスタレーション
ギャラリー緑隣館(埼玉)展示風景(2014年)
作品コメント
この作品の制作方法は、ワークショップ参加者の行為が軸となっています。作品制作を目的としないワークショップ(巨大な綿布の上で参加者による全身での絵具行為)で出来た素材を、トリミングカットし縫い合わせてキャンバス(画面)にした物を、可動画面(カーテン)の絵画作品として制作しました。カーテン越しに、野外と室内が出入りでき、光や風、人、猫など様々な不確定要素で、画面がゆらぎ気配が往来し、それとともに画面の表情が変わります。この作品には、このように演劇性を取り入れています。
この作品は「(単なるワークショップ参加者の行為としての)痕跡」と「(展示環境や鑑賞者によって意味付けされる)表現」という二重の構造をもっています。
単なる「痕跡」が、どのように「表現」として位置付けられ意味付けられ、そして価値付けられていくのか。鑑賞における様々な関係性を取り込むことで、「単なる痕跡」が「作品」となりうる瞬間を「鑑賞する行為の意識の二重構造」として、この「組替え絵画」作品シリーズでは提示しています。
『組替え絵画』シリーズについて
作品の制作方法
制作方法としてワークショップを取り入れている理由は、作品となる綿布(紙)に、偶然できる絵具の痕跡(残物)を作るためです。天地左右など絵画的制作を意識しえない広さの綿布(紙)を床に敷き詰め、その上で不特定多数の参加者が、単なる絵具体験/遊びをします。参加者が不特定多数であるため、個(作者)が意味を持ちません。そして、それらの綿布や紙(痕跡)をトリミングカット、縫う、木枠に張る、額装するなどの最小限の作業で、作品を制作します。糸を取り除き、縫い合わせを替えるなどにより、作品は別の形態に変わることができます。
「組替え」の意味
・作品の構造としての「組替え」
「作品の構成要素を入れ替えることが可能」つまり「作品の組み合せの位置を置き換えたり、布の場合は縫い直したりすることが可能」という意味での「組み替え」ですが、むしろ重要なのは、以下の作品意図になります。
・作品の意図としての「組替え」
「組替え」には、「絵画」としての本質が「組み替えられている」という意図が込められています。絵画の本質とは、「絵画を描く主体」のことで、「主体である作家」つまり「作品を描いた作者」が組み替えられているということを指しています。本来なら「作家自身が描く」という制作過程を、この作品ではワークショップ参加者が「制作を意図しない」絵具体験/遊びとして行っています。
前提として作家自身が意図して描いていないからこそ(本質として組替えられているからこそ)、構造的にも組み替えられることが可能になります。
絵画にとっての本質的な要素である描く「主体/作家」が入れ替わっていることが、この作品で私が重視していることです。それにより、作品にはテーマ性も物語性も思考も存在していません。しかし作品を見た時、それらがあたかも存在しているように鑑賞者が感じるのは、そこにはすでに鑑賞者の既存の絵画的見え方が存在するからです。
この作品は、「抽象表現主義」などの絵画的コンテキストとしての鑑賞の概念を、作家側ではなく鑑賞者側に組み込むことで、作品として成立しうるように制作しています。つまり、仮にこの作品が「抽象画」に見える人がいるとすれば、それはその人が自身のコンテキストに照らし合わせて、作品を意味/位置づけているということになります。なぜかというと、作品に現出されているものは、単なる偶然の痕跡(残物)でしかないからです。
このように私が作品について考えるのは、作品制作で試みていることが、「無常観」だからです。目の前に存在しているものすべては、様々に関係し合い影響されながら、「仮の姿/形」として現出していると考えています。「仮の姿/形」を「姿/形」として意味付け、価値付けするのは、それに対峙した「個々の価値観」とそれらを取り巻く状況だと考えます。そしてその価値観も状況も、社会や人生の中で常に変わっていきます。何かのきっかけで「パンッ」と目の前の幕が落ち「はっとする」、その瞬間を作品で提示しているのです。
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